「攻めの予防医療」という言葉が2026年の政策文書に登場し始めています。現場のリハビリ専門職にとって、これは遠い政策の話ではありません。診療報酬・介護報酬・補助金の設計に直結するキーワードであり、リハビリテーションそのものが政策上の主役として位置づけられつつあります。

今回の最大のポイント
リハビリテーションが「治療手段」ではなく「予防政策」として、骨太の方針レベルで明記されました。病院でリハビリをする、という枠を超えて、地域の予防の場でリハ専門職が動くことを国が政策として位置づけた——これが今回の核心です。

この記事では、「攻めの予防医療」とは何か、なぜ今このタイミングで登場したのか、そしてPT・OT・STの仕事とどう接続しているのかを整理します。

📋 この記事でわかること
「攻めの予防医療」の定義と背景/リハビリテーションとの3つの接点/統括調整室・議員連盟との関係/骨太2026が示す今後の方向性(原案公表後に追記予定)

① 「攻めの予防医療」とは何か

まず言葉の意味を整理します。

🛡️ 従来の予防医療(守り)
病気にならないようにする。健診・ワクチン・生活習慣改善が中心。問題が起きてから対処する受け身の発想。
⚡ 攻めの予防医療
機能低下が始まる前、または初期段階で積極的に介入する。フレイルや生活機能の低下を早期に発見し、重症化・要介護化を防ぐ能動的な発想。

単なるスローガンではなく、骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に盛り込まれた政策用語です。骨太の方針は予算編成・制度設計の大方針であり、ここに記載されたキーワードは診療報酬・介護報酬・補助金の設計に反映されていきます。

📖 用語解説:骨太の方針とは
毎年6月ごろに閣議決定される「経済財政運営と改革の基本方針」の通称。政府の経済・財政・社会保障政策の方向性を示す文書で、翌年度の予算編成や診療報酬改定の指針になります。ここに書かれたキーワードは、数年かけて制度に落とし込まれていきます。

厚労省が示した「攻めの予防医療」の6本柱

2026年5月22日に開催された経済財政諮問会議で、上野厚生労働大臣は「持続可能な社会保障制度の構築に向けて」と題する資料を提出しました。その中で「攻めの予防医療」の推進策として、以下の6つの柱が明示されています。

主な内容
栄養・食生活 疾病リスクの低減に資する健康的な食事の発信、自治体・保険者・産業界との連携
がん・循環器病等 就労状況に応じた検診・健診の受診勧奨強化、大臣指針の改正による職場での受診勧奨促進
歯科保健 生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の推進、簡易な口腔スクリーニングの支援
認知症 早期診断・早期対応の社会実装モデル事業、超早期対応を可能にする医療提供体制の研究
🟢 リハビリテーション 地域ケア会議・住民運営の通いの場等へのリハビリテーション専門職等の関与を促進、高齢者保健事業との一体的実施を推進
性差に由来するヘルスケア 更年期世代の女性に対応する医療の推進、男性の中高年期の健康課題への対応

出典:経済財政諮問会議 資料4「持続可能な社会保障制度の構築に向けて」(上野臨時議員提出資料・2026年5月22日)

💡 リハビリテーションが柱のひとつに明記された意味
6本柱のうちリハビリテーションが明記されたことは、「病院でリハビリをする」だけでなく「地域の予防の場でリハ専門職が動く」ことを国が政策として位置づけた点で注目されます。地域ケア会議・通いの場への関与促進は、PT・OT・STの活躍の場が病院外へ広がることを意味しています。

「攻めの予防医療」で期待される効果

厚労省が5/22の資料で明示している期待効果は2点です。

1
健康寿命の延伸
「攻めの予防医療を推進し、健康寿命の延伸を図る」と資料に明記されています。フレイルや要介護化を予防することで、高齢者が元気に活躍できる期間を伸ばすことが主眼です。日本は平均寿命と健康寿命の差(男性約8.5年、女性約11.6年・2022年・厚労省)が大きく、この差を縮めることが医療・介護費抑制の鍵とされています。
2
社会保障制度の「支え手」確保
「皆が元気に活躍し、社会保障制度を含めた社会の支え手を確保する」と資料に明記されています。健康でいる人が増えれば、現役として働き続けられる人が増え、保険料を納める側に留まれるという発想です。医療・介護サービスを必要とする期間を短縮し、社会保障制度の持続可能性を高める考え方とも読めます。
リハ専門職への示唆
国が期待しているのは「病気になった後の回復」だけではなく、「なる前に防ぐ」段階での関与です。通いの場・地域ケア会議へのリハ専門職の参加は、この文脈で求められています。今後の介護報酬改定でどのように評価されるかは未定ですが、地域予防への関与を重視する方向性は資料から読み取れます。

② なぜ今なのか——2040年問題とリハビリの役割

「攻めの予防医療」が今このタイミングで政策化される背景には、日本が直面する構造的な問題があります。

時期 何が起きるか リハビリへの影響
2025年 団塊世代が全員75歳以上に(後期高齢者の急増) フレイル・認知症・要介護者が急増。リハニーズが拡大
2026年 診療報酬・介護報酬改定。「攻めの予防医療」が骨太に登場 早期介入・アウトカム重視への制度シフト
2040年 高齢者人口がピーク(約3,900万人)。生産年齢人口が急減 支える人が減る中で、予防・早期介入の重要性が最大化
2040年以降 医療・介護費が現在の水準を大幅に上回る見通し 重症化を防ぐリハビリの経済的価値が政策上の根拠になる
🔍 今後の検証ポイント
  • 骨太2026閣議決定(2026年6月予定):「攻めの予防医療」がどこまで具体化されるか。リハビリテーションへの言及が維持・強化されるか
  • 令和9年度介護報酬改定:地域ケア会議・通いの場へのリハ専門職関与が報酬として評価されるか
  • リハビリテーション統括調整室の動き:「攻めの予防医療」の実装に向けた具体的な施策調整が進むか
  • PT・OT法改正の議論:地域予防の担い手としてのリハ専門職の法的位置づけが見直されるか

2040年には高齢者人口が約3,900万人に達すると見込まれています。問題は高齢者が増えることだけではありません。同時に医療・介護を支える生産年齢人口が減少します。つまり「支える人が減るのに、支えられる人は増える」という状況です。

この構造的な問題に対する一つの答えとして、厚労省は「攻めの予防医療」を掲げています。在宅医療の拡大、フレイル対策、地域包括ケアの深化——いずれも「リハビリテーション専門職が病院の外で動く」ことを前提とした政策です。同時に、医療費抑制の圧力の中で「治す医療」から「支える医療・予防する医療」への転換が求められています。

こうした構造変化の中で、病院・介護・地域をまたいで動けるリハビリ専門職の存在は、政策上の優先課題に浮上してきました。

つまり、リハビリテーションは「医療費がかかるサービス」ではなく、「医療・介護費の増加を抑える投資」として政策的な期待を集め始めています。

📖 用語解説:フレイルとは
加齢によって筋力・活力・認知機能などが低下し、健康な状態と要介護状態の中間にある状態のことです。英語の「Frailty(虚弱)」に由来します。フレイルは適切な介入によって回復できる段階であり、ここでのリハビリ介入が要介護化を防ぐ鍵とされています。フレイルの評価指標には体重減少・疲労感・身体活動低下・歩行速度低下・握力低下の5項目(Friedの基準)が広く使われています。
📖 用語解説:サルコペニアとは
加齢や疾患により筋肉量・筋力・身体機能が低下した状態です。フレイルと密接に関連しており、転倒・骨折・要介護化のリスクを高めます。PT(理学療法士)が最も介入しやすい領域の一つで、抵抗運動(筋力トレーニング)と栄養管理の組み合わせが有効とされています。

③ リハビリテーションとの3つの接点

「攻めの予防医療」が目指す早期介入・重症化予防は、PT・OT・STの専門性と直接つながっています。

1
フレイル・サルコペニアへの早期介入
筋力低下・歩行速度低下・バランス障害の評価と介入は、PTが最も得意とする領域です。地域での健康教室・通所リハ・訪問リハを通じて、要介護化の前段階にいる高齢者へ届ける役割が期待されています。
2
生活機能の維持・向上
ADL(日常生活動作)・IADL(手段的日常生活動作)の低下を予防し、在宅生活を継続させるための介入は、PT・OT・STが担う中核業務です。「治す」だけでなく「生活を支える」専門性が、予防医療の文脈で再評価されつつあります。
3
多職種連携の要としての役割
医師・看護師・管理栄養士・歯科衛生士との連携において、生活機能の評価と介入計画をまとめる役割をリハ職が担うことが期待されています。「リハビリ・栄養・口腔」の一体的な提供が介護報酬でも評価される方向にあり、チームの調整役としての専門性が問われています。
📖 用語解説:地域ケア会議とは
市区町村が主催する多職種連携の会議です。介護支援専門員(ケアマネジャー)が持ち込んだ個別ケースについて、医師・看護師・PT・OT・ST・管理栄養士・歯科衛生士などが集まって検討します。「この患者さん、なぜ歩けなくなったのか」「在宅生活を続けるために何が必要か」を多職種で話し合う場です。PT・OT・STなどのリハビリテーション専門職が参加し、生活機能の評価や運動面の助言を行うことが求められています。
📖 用語解説:住民運営の通いの場とは
介護予防を目的に、地域の住民が自主的に運営する集まりの場です。公民館・集会所・商業施設のスペースなどで週1回程度開かれ、体操・ゲーム・おしゃべりなどを行います。行政主導ではなく住民が自分たちで運営する点が特徴で、全国で約14万5,000か所以上あるとされています(2022年度・厚労省)。これまでリハ専門職が関わる機会は少なかったですが、「攻めの予防医療」の文脈で、PT・OT・STが定期的に訪問して運動指導やフレイルチェックを行う役割が期待されています。
📖 用語解説:ADL・IADLとは
ADL(Activities of Daily Living)は食事・更衣・移動・排泄・入浴など、日常生活の基本的な動作のことです。IADLはより複雑な動作で、買い物・料理・交通機関の利用・薬の管理・電話の使用などが含まれます。IADLはADLより早期に低下することが多く、フレイルや認知症の早期発見の指標にもなります。

④ 統括調整室・議連との関係——政策を動かす2つの基盤

「攻めの予防医療」は、すでに動き出している2つの政策基盤と連動しています。

3点セットとして読む
リハビリテーションを考える議員連盟(政治的後押し)→ リハビリテーション統括調整室(厚労省内の政策調整)→ 攻めの予防医療(制度への落とし込み)、という流れで整理すると見通しがよくなります。

リハビリテーション統括調整室(2026年5月設置)

厚労省内にリハビリ政策を一元的に調整する組織として設置されました。これまでバラバラだったリハビリ関連の政策が、一つの調整の場に集まることで、「攻めの予防医療」の制度的な実装が進みやすくなります。「決める力はない、でもリハビリ政策を一か所で束ねる土台ができた」と表現される組織です。

リハビリテーションを考える議員連盟(247名・2026年時点)

2013年に10名で発足し、2026年には247名規模に成長した超党派の議連です。「攻めの予防医療」を政治課題として後押しする役割を担います。247名という規模は、骨太の方針や診療報酬改定の方向性に影響を与えうる数字です。

💡 この3点セットが意味すること
統括調整室・議連・攻めの予防医療は、それぞれ独立した動きではなく、「リハビリを政策の中心に置く」という一つの方向性を共有しています。この流れが続くかどうかは、2026年骨太の原案と最終版の内容に大きく依存します。

⑤ 現場への影響——職種・職場別に考える

「攻めの予防医療」は今すぐ給料が上がる話でも、明日から業務が変わる話でもありません。ただし職場によって関係の深さは異なります。

職場・職種 関係の深さ 具体的な変化の可能性
訪問リハ 🟢 高い 通いの場・地域ケア会議への関与促進が直接的に影響。介護予防領域での活動がさらに求められる可能性
老健・通所リハ 🟢 高い フレイル予防・地域ケア会議との連動が強まる。地域の予防拠点としての機能が評価される方向
急性期病院PT 🟡 中程度 直接的な影響は今のところ少ないが、退院後の地域連携・予防への意識が求められる流れが続く
回復期・地域包括ケア病棟 🟡 中程度 「治す」から「生活に戻す・予防する」への意識転換は、地域包括ケアの方向性とも一致する
民間リハ施設・スポーツ ⚪ 現時点では低い 保険外領域での介護予防サービスの需要増加という間接的な影響はあるかもしれない

⑥ 結局、リハ職に関係あるの?

厚労省は「病気になった後のリハビリ」だけでなく、「病気になる前の予防」にもリハ専門職を位置づけ始めています。地域ケア会議・通いの場・フレイル予防——これらが国の政策文書に「リハビリテーション専門職の役割」として明記された事実は、軽くない意味を持ちます。

ただし現時点では、法律や報酬の仕組みがまだ追いついていません。今後の骨太閣議決定・介護報酬改定・PT・OT法改正の動きをウォッチしながら、自分の職場での動き方を考えておくことが現実的な対応です。

「攻めの予防医療」は、リハ専門職にとって脅威ではなく、専門性を発揮できる領域が広がるシグナルとも読めます。ただしそれが制度として実現するかどうかは、今後の政策の動き次第です。

⑦ 骨太2026から読む今後

⏳ 追記予定
骨太2026の原案(2026年6月中旬予定)の内容を確認次第、このセクションに追記します。「攻めの予防医療」の具体的な施策・数値目標・リハビリへの言及内容を一次資料ベースで整理する予定です。原案公表後48時間以内に追記予定です。
⚠️ この記事の情報について
本記事は骨太2026原案公表前の時点(2026年6月)で執筆しています。「攻めの予防医療」の具体的な施策・予算・数値目標については、骨太原案公表後に追記します。現時点の内容は政策の方向性の整理であり、確定した制度内容ではありません。