訪問看護では、リハ職の訪問比率が議論になっています。一方で、訪問リハビリステーション構想も再び動き始めました。

締め付けと独立
一見逆方向に見える議論が、2026年に同時進行しています。介護給付費分科会では訪問看護におけるリハ職の役割が問われ、リハビリテーションを考える議員連盟は訪問リハビリテーション専門機関(以下、訪問リハステーション構想)の新設検討を要望しました。骨太方針2026原案にも「予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション」という文言が盛り込まれています。

一つひとつは別の動きですが、なぜ同じ時期に両方が動いているのか。まず、それぞれの経緯から見ていきます。

① 訪問看護でのリハ職比率問題

訪問看護ステーションには、看護師だけでなく理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(以下リハ職)を配置することができます。このリハ職による訪問の比率が、平成21年(2009年)頃から課題として認識され始めていました(第142回介護給付費分科会・平成29年7月資料)。

令和6年度(2024年度)介護報酬改定では、前年度のリハ職訪問回数が看護職員訪問回数を上回る事業所に対し、1回8単位の減算が新設されました。

2026年6月29日の第259回介護給付費分科会でも、この論点が再び取り上げられています。厚労省の資料では「理学療法士等による介護予防訪問看護の算定割合は近年横ばいで推移しているが、単位数は増加している」と示されました。江澤委員(日本医師会常任理事)は「要支援者の約半数、要介護者の約3分の1の訪問をリハビリテーション専門職が担っている」と指摘し、「本来あるべき訪問看護ステーションの姿ではない」と述べています。伊藤委員(健保連常務理事)、東委員(全国老人保健施設協会会長)からも同様の懸念が示されました。

経営面では、訪問看護の収支差率が10.3%、訪問リハビリテーションが10.8%となっており、全サービス平均の4.7%と比べて高い水準にあることも示されています。

この比率問題が議論されている、ちょうど同じ時期に、実は全く逆方向の動きも進んでいました。

💡 現場からの声
制度上の課題だけではありません。現場では、主治医への依頼・リハビリテーション会議への出席・書類作成など、訪問リハビリテーション側にも独自の負担があります。私も訪問リハに携わっていましたが、一番苦労したのは主治医への依頼でした。協力的な医師ばかりではなく、時間的にも心理的にも負担は小さくありません。この構造は今も大きく変わっていないようです。現場では、医療保険しか利用できない層、つまり介護保険非該当の利用者について、十分な支援につながりにくいという声もあります。

② 訪問リハビリステーション構想とは

現行制度では、訪問リハビリテーションは病院・診療所・介護老人保健施設などを母体としないと開設できません。単独で開設できる「訪問リハビリステーション」という事業所類型は、今も存在しません。

この構想の出発点は2000年(平成12年)まで遡ります。介護保険法の施行を前に、日本作業療法士協会が地域リハビリテーション支援センターや訪問リハビリテーションステーションの創設を提案していました。

2006年度、2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定に際しては、日本理学療法士協会・日本作業療法士協会・日本言語聴覚士協会の3団体が共同で制度化を要望しています。しかし全国的な制度としては実現しませんでした。

例外的に実現した例もあります。東日本大震災の復興特区法(平成23年12月施行)により、被災地限定で「訪問リハビリステーション」の開設が認められ、福島県南相馬市に「浜通り訪問リハビリステーション」が開設されました。

③ なぜ全国展開しなかったのか

2012年度改定を最後に、3協会からの公式な要望活動は表立って確認できなくなります。厚労省は、理由を公式には示していません。

しかし業界では、こんな話が今でも語られています。医師が多く所属する団体、看護師が多く所属する団体から、強い反対があったという話です。これは、ある議員が講習会で語ったという内容が、掲示板で伝えられているもので、厚労省の公式記録ではありません。

真偽は確認できません。ただ、約25年間制度化されなかった背景には、制度設計だけでは説明できない事情もあったのかもしれません。

④ 25年前と今で変わったのは、「制度」ではありません

要望の中身は、25年前から大きく変わっていません。変わったのは、それを届ける経路です。

25年前も、必要性は語られていました。しかし要望する側には、政治の中で直接議論できる立場がありませんでした。2000年当時、PT・OT・ST出身の国会議員はいませんでした。要望は、協会から省庁への陳情という形に限られていました。

その後、理学療法士の議員が誕生し、議連も10名から247名まで拡大しました。厚労省内にはリハビリテーション統括調整室も新設されています。

当事者が政治の中に議席を持つようになったこと。これが、構想が再び動き出した背景にあるのではないかと私は見ています。

⑤ 2026年、再び議連の要望に

2026年6月11日、上野厚労大臣へ、6月12日には平口法務大臣・小林政調会長へ、リハビリテーションを考える議員連盟が決議文を提出しました。議連幹部と3協会役員が出席し、7項目の要望のうち、訪問リハビリテーション専門機関の新設検討が含まれています。

同時期、骨太方針2026原案(6月30日、経済財政諮問会議提示)には「予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション」という文言が新たに記載されました。5月19日にはリハビリテーション統括調整室も省内に新設されています。

⚠️ この記事の情報について
骨太方針2026は、高市総理が7月中旬の閣議決定を目指すと表明していますが、本記事執筆時点(2026年7月)では原案の段階です。閣議決定後の文言確定は別途確認が必要です。

⑥ まとめ:2つの力学が同時に動いている

今起きているのは、「訪問看護からリハを減らす」という議論だけではありません。一方では、訪問リハを独立させようという構想も再び動き始めています。

私は、この二つを対立ではなく、地域でリハビリをどう提供していくかという一つの議論として捉えました。

2040年に向けた制度設計の中で、この二つの力学がどこで交わるのか、今後も注目していきたいと思います。

よくある質問

Q. 訪問リハビリステーション(訪問リハステーション)とは?
訪問リハビリテーションを単独で提供できる事業所類型の構想です。現行制度では、訪問リハビリテーションは病院・診療所・介護老人保健施設などを母体としないと開設できず、この構想は今も制度化されていません。
Q. 今も開設できる?
全国的な制度としては開設できません。例外として、東日本大震災の復興特区で被災地限定の開設が認められた例があります。
Q. 全国に広がっているのか?
2026年7月時点で、全国的な制度化はされていません。リハビリテーションを考える議員連盟が2026年6月、新設検討を要望として提出しています。

資料編:第259回介護給付費分科会(R8.6.29)訪問看護・訪問リハ関連データ

項目内容
訪問看護 収支差率10.3%(全サービス平均4.7%)
訪問リハビリテーション 収支差率10.8%
リハ職訪問回数超過減算1回8単位(令和6年度改定で新設)
江澤委員発言(要支援)約半数をリハ職が担当と指摘
江澤委員発言(要介護)約3分の1をリハ職が担当と指摘
介護予防訪問リハ 24か月後継続率約76%
認知症短期集中リハ実施加算算定率が著しく低いと分科会で報告
議連決議文 提出先・日程上野厚労大臣(6/11)、平口法務大臣・小林政調会長(6/12)
議連側出席者鈴木俊一会長・田野瀬太道幹事長・小川克巳事務局長・田中昌史事務局長代理
協会側出席者斉藤秀之会長・佐々木嘉光副会長

参考・一次ソース

  • 第259回介護給付費分科会 資料3(訪問看護):mhlw.go.jp
  • 第259回介護給付費分科会 資料4(訪問リハビリテーション):mhlw.go.jp
  • 議連決議文の参加者情報:japanpt.or.jp
  • 骨太方針2026原案:cao.go.jp
  • 「"幻"の制度 訪問リハビリステーションの行方──構想から約25年」:1post.jp
  • 2040年を展望した社会保障・働き方改革について:mhlw.go.jp