新設ではありません

制度改正でもありません

追加されたのは、脚注137の一文だけでした

「効果的な訪問リハビリテーションの充実を含む」
骨太方針2026の原案(6月30日提示)にはなかったこの一文が、閣議決定版(2026年7月21日)に追加されました。本文にあたる「予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション」という一文自体は、原案から一言一句変わっていません。変わったのは、そこに付いた脚注だけです。

骨太方針は基本的に大きな方向性を示す文書です。本文が変わらない中で、脚注だけが閣議決定までの1ヶ月弱の間に加わったということは、この一文を入れるために何らかの強い働きかけがあったのではないか、そう感じさせます。

新設でも、減算の見直しでもなく、「充実」という言葉が一つ増えました。軽んじられない一文だと思います。

以前、訪問リハビリステーション構想について、約25年の経緯を整理しました(訪問リハビリステーション構想とは|約25年越しに再び動き出した制度議論)。あの記事を書いた時点ではまだ原案段階で、「閣議決定後の文言確定は別途確認が必要」と書きました。今回はその続報です。

「充実」という言葉が選ばれた意味

行政文書の言葉選びには、意図が表れます。

「新設」なら、新しい事業所類型・制度の創設を意味します。「拡充」なら、既存の枠組みを広げる方向性が読み取れます。「充実」はそのどちらでもなく、内容を厚くする、質を高めるという、方向性を限定しない言葉です。

新設制度を作る
拡充制度を広げる
充実制度はそのままで中身を改善する

言葉の強さで見ると、この順に弱くなります。骨太方針が選んだのは、一番弱い、方向性を限定しない言葉でした。

もう一つ、見過ごせない言葉があります。「効果的な」という一語です。近年の報酬改定では、効果を示せるサービスを評価するという流れが強まっています。「充実」の前に「効果的な」が付くことで、無条件の拡充ではなく、効果を伴うものに限って充実させるという条件が、既にこの一文の中に埋め込まれているようにも読めます。

新設を求める声と、締め付けを求める声、その間で骨太方針が選んだのは、どちらにも取れる言葉であり、かつ「効果」という条件付きの言葉でした。

背景:分科会での厳しい意見

同じ6月29日の第259回介護給付費分科会では、伊藤委員(健保連)が報酬上の評価を、江澤委員(日本医師会)が配置比率を、それぞれ問題視する意見を述べています。

新設を求める議連の動き、締め付けを求める分科会の意見、その両方が同じ時期に動いている中で、骨太方針には「充実」という一文だけが加わりました。大きな要望のどれかが通ったわけではなく、小さな一文だけが動いたのが今です。

考えられる5つのルート

制度がここからどちらに転ぶか、一次資料から見える範囲で整理してみます。

①独立型訪問リハステーションの創設

議連が要望している方向そのものです。ただし約25年間実現しなかった経緯があり、脚注の文言は「充実」であって「新設」ではないため、この一文だけから直接読み取れるものではありません。

議連は2026年6月、7項目の要望のうちの1つとしてこの新設検討を掲げています。設立当初10名だった議連は現在247名まで拡大しており、以前の記事で整理したとおり、当事者が政治の中に議席を持つようになったことが、25年前とは異なる条件として存在します。

②訪問リハ事業所の機能拡大・運用の簡素化

現行の枠組み(病院・診療所・老健を母体とする訪問リハ)を維持したまま、要件緩和で実質的な拠点機能を持たせる方向です。「充実」という言葉の範囲に収まりやすいルートです。

現場では、短期集中リハ加算・社会参加支援加算・リハビリテーションマネジメント加算など、算定のための記録・会議・報告が月末に集中しやすい実感があります。私が訪問リハに携わっていた頃も、書類作成に追われる月末は珍しくありませんでした。「簡素化」がどこまで踏み込むかによって、現場の実務負担の変化は大きく変わりそうです。

③訪問看護からのリハビリテーションの充実

訪問看護ステーションでの機能強化という形で「充実」が実現するルートです。ただしこれは分科会で指摘されているリハ職比率の高さへの懸念と逆行するため、両立には整理が必要です。

一方で、訪問看護は訪問看護指示書があれば開始しやすく、書類も比較的シンプルだと感じます。訪問リハでは、体調急変時の対応をスタッフが一人で判断しきれず、訪問先から電話で相談が入ってくるケースもあります。医療的なバックアップという実務上の利点は、訪問看護からの充実というルートにはあります。

④現行制度からの変更なし

「充実」という言葉が、既存制度の運用改善程度に留まり、事業所類型としての変更を伴わない可能性です。

この場合、医師との連携や書類対応など、訪問リハ側の周辺業務の負担構造は基本的に変わらないままになります。「充実」という言葉が使われても、現場の実務が体感できる変化に直結しない可能性もあるということです。

⑤訪問看護・訪問リハ双方の報酬の見直し

分科会での厳しい意見がそのまま反映され、「充実」とは別に、双方の報酬体系に手が入るルートです。

第259回分科会の資料では、訪問看護の収支差率10.3%、訪問リハビリテーションの収支差率10.8%が示されており、いずれも全サービス平均の4.7%を上回る水準です。この差は、報酬見直しの議論において根拠として使われうる数字です。

まとめ

私はこの選び方自体に、まだどちらへも転びうる状態と、今後問われるであろう基準の両方が、既に表れているように読みました。

現時点で一次資料から「これになる」と断言できるものはありません。

ただ、公表されている資料を並べると、制度として動き得る方向性は少なくともこの5つに整理できます。

今後どのルートへ向かうのかは、今後の分科会や改定議論で見えてくるはずです。

制度は、ある日突然変わるように見えても、その前に行政文書の言葉が少しずつ変わっていくことがあります。この脚注137が、その最初の変化だったのかどうかは、今後の制度設計で見えてくると思います。

よくある質問

Q. 脚注137とは?
骨太方針2026の閣議決定版で、「予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション」という本文の一文に新たに付いた脚注です。「効果的な訪問リハビリテーションの充実を含む」という文言で、原案(6月30日提示)にはなく、閣議決定までの間に追加されました。
Q. 「充実」と「拡充」は何が違う?
「拡充」は既存の枠組みを広げる方向性を含みますが、「充実」は枠組みを変えず中身を厚くする、より方向性を限定しない言葉です。骨太方針2026で使われたのは「充実」の方でした。
Q. 訪問リハステーションは決まったの?
決まっていません。リハビリテーションを考える議員連盟が2026年6月、独立型の訪問リハビリステーション新設を要望として提出していますが、脚注137の文言は「充実」であり「新設」ではないため、この一文だけから新設が決定したとは読み取れません。
Q. 骨太方針は法的拘束力がある?
骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)は、政府の大きな政策の方向性を示す閣議決定文書で、個別の法律のような直接的な拘束力は持ちません。ただし、その後の予算編成や制度改正の議論の土台になる文書として扱われます。

資料編

項目内容
骨太方針2026 閣議決定日2026年7月21日
脚注137の文言効果的な訪問リハビリテーションの充実を含む
原案(6月30日)での該当箇所脚注なし
本文(脚注が付いた一文)予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーション
議連決議文 提出先・日程上野厚労大臣(6/11)、平口法務大臣・小林政調会長(6/12)
第259回介護給付費分科会 開催日2026年6月29日
訪問看護 収支差率10.3%(全サービス平均4.7%)
訪問リハビリテーション 収支差率10.8%
議連の設立時人数/現在の人数10名→247名

参考・一次ソース