生成AIを業務で使い始めたという話を、職場でも耳にするようになってきました。
記録の下書き、リハビリサマリーの作成、勉強会の資料づくり。ChatGPTをはじめとする生成AIの用途はさまざまですが、共通しているのは「便利だから使っている」という感覚です。
ただ、その便利さの裏側に何があるのか、職場としてどこまで許容するのか、答えを出せている現場はまだ少ないと思われます。
この記事では、リハ・介護現場でのAI利用をめぐる現状と、今使えるガイドラインを読み解きます。
ルールの現状
現在、医療情報の取り扱いに関する主なガイドラインは、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」(令和5年5月)です。
このガイドラインでは、国外サーバーや海外事業者のクラウドを利用する場合、安全管理や責任の所在(責任分界点)を厳格に評価・書面化することが義務付けられています。個人が無断で海外のAIサービスや一般的なクラウドに患者情報を入力することは、これらの要件を満たせない可能性が高いと考えられます。
ただし、このガイドラインが策定されたのは2023年です。ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及し始めた時期と重なりますが、個人が業務でAIを使う場面に関する具体的な規定は設けられていませんでした。
つまり現状は、個人での生成AI利用に関する明確なルールが存在しない状態で、現場で利用事例が報告され始めているということです。
HAIPという選択肢
そのような状況の中で、現時点で医療現場向けの生成AI利用ガイドラインの一つとして参照できるのが、HAIP(医療AIプラットフォーム技術研究組合)が策定した「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン」です。
このガイドラインは令和5年度厚生労働行政推進調査事業費(特別研究)補助金の研究成果として2024年10月に公表され、2025年7月には第2版が発行されています。
個人利用者向けに「組織が利用可能と判断したサービスであることを確認する」「医療情報を入力する場合は再学習に使われない設定であることを確認する」など、具体的な注意点がまとめられています。
厚労省の公式ガイドラインではありませんが、現時点で生成AIの医療現場での活用を考える上での現実的な指針として活用できます。
実際に使うとどうなるか
実際にリハ職がAI記録作成を業務に導入したらどうなるのか、国内の研究が一つの答えを示しています。
2026年5月、京都・蘇生会総合病院リハビリテーション科の研究チームが国際誌Cureusに発表した論文では、ユビー生成AIとExcel/VBAマクロを組み合わせたワークフローを導入した結果が報告されました。
作成時間の中央値は導入前の23分から導入後10分へと約57%削減されました。ただしこの「10分」には、AIが生成した内容を療法士が確認・修正する工程も含まれています。
一方で安全性の評価では、無作為に抽出した11件のAI生成サマリーのうち9件(81.8%)に少なくとも1件のエラーが含まれていました。このエラーはハルシネーション(幻覚)と呼ばれるAI特有の現象で、「電子カルテに記載のない合併症が追加される」「症状から根拠なく病名が生成される」といった内容でした。患者管理に影響しうる重大なエラーも含まれていました。
また研究で使われたプロンプトは「バージョン4.0」でした。試行錯誤の積み重ねの末にたどり着いた数字です。
個人利用と施設単位での導入の違い
リハビリサマリーや介護記録の作成負担は、現場の療法士なら誰もが実感していることです。書類業務に追われ、患者さんと向き合う時間が削られていく。AIに手を出したくなるのは、ある意味当然の流れです。
問題は、どう使うかです。
AIの導入には大きく2つのパターンがあります。施設単位での導入と、個人での利用です。
施設単位での導入は、電子カルテベンダーや専門業者が関与するため、セキュリティ要件や情報管理のルールがある程度担保された状態でスタートします。蘇生会総合病院の事例もこれにあたります。
問題は個人での利用です。ChatGPTや生成AIに患者情報を入力したり、患者情報をやり取りするといった動きが現場で見られます。
ここで重要なのは、クラウドサービスの利用が「すべてアウト」ではないという点です。
個人の無料アカウント(Gmailに紐づいたGoogleドライブ):組織管理・委託契約・アクセス管理が担保されないため、安全管理措置の要件を満たさない可能性が高く、情報漏洩や義務違反に抵触するリスクがあります。
Google Workspaceのような施設契約サービス:施設として正式に契約し、利用規約の整備と委託契約が締結されている場合は、安全管理の要件を満たせる可能性があります。施設契約のもとでGoogleドライブを使う場合も、契約内容によっては要件を満たせるケースがあります。
ただし、Google WorkspaceのBAAは主に米国HIPAA対応であり、日本の医療情報安全管理ガイドライン上の要件を満たすかどうかは施設側での確認が必要です。
① データ管理体制・適用法域が国内法に準拠しているか
② 入力したデータがAIの学習に使われない設定になっているか
③ 医療機関とクラウドを接続するネットワークはセキュアか(VPN等)
個人の無料アカウントでは①②③のいずれも確認・担保することが困難です。施設契約サービスであっても、施設の情報管理担当者と確認した上で利用することが求められます。詳細はHAIPガイドライン第2版の2章をご参照ください。
組織・個人でできること
では、今の段階で何ができるでしょうか。
施設単位での対応としては、HAIPのガイドラインに準拠した形で利用可能なサービスを選定し、職員への周知とルールの明文化を進めることが現実的な第一歩です。
個人としてできることは、まず施設が承認していない生成AIに患者情報を入力しないことです。匿名化した情報や一般的な文書作成の補助として使う範囲に限定することが現時点での現実的な使い方といえます。
また、蘇生会の研究が示すように、AIをうまく使えるようになるにはプロンプトの試行錯誤が必要です。「バージョン4.0」という数字が示すように、すぐに使いこなせるものではなく、組織として蓄積していくものです。
生成AIのルールは今後さらに変化していきます。HAIPが第2版を出したように、指針は更新され続けています。個人や部署単位で先に動くより、組織としての方針を持った上で使い始めることが、現時点では有力な選択肢と思われます。
AI利用チェッカー:あなたの職場では何がOKで何がNGか
5つの質問に答えると、あなたの職場でのAI利用の適切な範囲が判定されます。
よくある質問
参考・一次資料
- 蘇生会総合病院リハビリテーション科 論文(Cureus 2026):DOI: 10.7759/cureus.109247
- PT-OT-ST.NET 記事:リハビリサマリー作成にAI導入、作業時間57%削減も8割にエラー
- 厚労省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版:mhlw.go.jp
- HAIP 医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン第2版(2025年7月):PDF直リンク