① データが示す通所リハ計画書の目標構成

第258回社会保障審議会介護給付費分科会(令和8年6月15日)の資料3「通所リハビリテーション」P.44に、計画書の目標構成を示すグラフが掲載されています。出典は「通所・訪問リハビリテーションの適切な在り方についての調査研究事業(令和7年度老人保健健康増進等事業)」です。

通所リハビリテーション計画書の目標(要支援n=405・要介護n=917)
  • 身体機能の向上:約70%台(要介護)
  • 身体機能の維持:約65%台(要介護)
  • 歩行・移動能力の向上:約75%前後(要介護・最高値に近い)
  • 日常生活動作(ADL)の改善:約30%
  • 家事動作など(IADL)の改善・拡大:約20%
  • 地域における社会参加の促進:ほぼゼロ(5%以下)

出典:第258回介護給付費分科会資料3 P.44(R8.6.15)

同資料P.49の「現状と課題」には、厚労省自身が次のように記しています。

「リハビリテーション計画書の目標は、運動機能の改善を目標にしている割合が約70%と高く、ADLの改善やIADLの改善を目標にしているのは20〜30%である」

出典:第258回介護給付費分科会資料3 P.49(R8.6.15)

計画書の目標だけでなく、実際の訓練内容も同じ構造です。同資料P.39「通所リハビリテーションで実施された内容」では、筋力増強訓練・関節可動域訓練・歩行訓練(平地)が突出して高く、IADL訓練や社会参加に向けた訓練は低水準にとどまっています。目標と実施内容が一致した構造になっており、これは偶然ではありません。

② なぜ厚労省はこのデータを出したのか

このデータの意味を正確に読むには、「どの文脈で公表されたか」を見る必要があります。

今回の資料は令和9年度介護報酬改定に向けた審議の検討材料です。問題のないサービスの実態をわざわざ「現状と課題」の章に置く必要はありません。厚労省がこの目標構成をデータとして示したということは、この現状を改定の議論のテーブルに乗せたということです。

同資料P.50の「論点」には、次の二点が明示されています。

①「通所リハビリテーションにおけるリハビリテーションの実施内容やリハビリテーションマネジメントの実施状況を踏まえ、通所リハビリテーションのサービス提供体制についてどのように考えるか」

②「令和6年度改定における審議報告も踏まえ、利用者のわかりやすさという観点や介護サービス事業者の事務負担軽減の観点から、算定率が低い加算についてどのように考えるか」

出典:第258回介護給付費分科会資料3 P.50(R8.6.15)

②で言及される「算定率が低い加算」の代表例が、生活行為向上リハビリテーション実施加算(算定率1.6%・事業所ベース)です。この加算はIADLの改善や社会参加を目指した取り組みを評価するものですが、算定しているのは7,655事業所中122事業所、100事業所のうち2事業所に満たない計算です。

「算定率の低い加算をどう扱うか」という問いは、廃止・統合・要件見直しのいずれかを含む問いです。次の改定でこの加算の行方が問われることは、ほぼ確実と見てよいでしょう。

③ 問題は現場ではなく、制度の設計にある

計画書の目標が運動機能中心になっていることを、「現場がICFを理解していない」「活動・参加への意識が低い」と読むのは、的外れです。

制度が定義するリハビリテーションと現実のギャップ

同資料P.38「高齢者の生活期リハビリテーション(イメージ)」には、次の記載があります。

「リハビリテーションは、単なる機能回復訓練ではなく、潜在する能力を最大限に発揮させ、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を可能にし、その自立を促すものである」

出典:第258回介護給付費分科会資料3 P.38(R8.6.15)

また同資料P.37の「リハビリテーションの役割分担(イメージ)」では、維持期・生活期における「活動・参加」の役割として「再建・維持・向上」が明示されています。心身機能だけでなく活動・参加まで含むことが、制度の定義として公式に示されています。

にもかかわらず、計画書の目標では社会参加の促進がほぼゼロです。現場のPT・OT・STが活動・参加の重要性を知らないわけではありません。この乖離は、現場の意識の問題ではなく制度設計の問題です。

目標と訓練は別物でいい——本来の姿

ここで一つ、臨床的な視点から整理しておきたいことがあります。

ICFの考え方では、目標設定は上位概念から始まります。「地域の通いの場に参加したい」という参加レベルの目標があり、そのために「歩いて外出できる距離を伸ばす」という活動レベルの課題があり、そのための手段として「筋力増強・バランス訓練」という心身機能レベルの訓練がある。この順番が本来の姿です。

計画書の目標と訓練内容の関係

計画書の目標が参加レベルであっても、実際の訓練が筋力増強や歩行訓練であることは何ら矛盾しません。訓練は目標を達成するための手段であり、目標そのものではないからです。

少なくとも現行制度上、計画書の目標と訓練内容の完全一致を求める明確な規定は確認できません。ただし実地指導では計画書と実施記録の整合性が確認されるため、目標と実施内容の間には説明可能なつながりが必要です。

にもかかわらず、目標も訓練も身体機能に集中している。この現状は、「参加レベルで目標を立てる」という思考の型が、現場に定着していないことを示しています。

なぜ計画書と実際の訓練内容はズレるのか

報酬上のインセンティブがない

通所リハビリテーションの基本報酬は、サービス提供時間・要介護度・事業所規模によって決まります。計画書の目標が身体機能の向上であれ、社会参加の促進であれ、基本報酬は変わりません。

参加レベルの目標は測定しにくく、短期間で変化も見えにくい。利用者・家族への説明も難しい。そして何より、そこに報酬上のインセンティブがない。制度上の評価構造が、そのような運用を後押ししているとも読めます。

この点は令和5年12月19日の審議報告(P.34)でも明確に指摘されています。

「生活期のリハビリテーションにおけるアウトカムは、心身機能、活動、参加に関する能力の改善だけでなく、非悪化や維持についても評価をすべきであるとの指摘があることから、具体的な評価方法について引き続き検討した上で、LIFEの活用も含め、報酬上の評価について検討していくべきである」

出典:令和6年度介護報酬改定に関する審議報告(R5.12.19)抄・資料3 P.34

「維持を評価できる報酬体系がまだない」という認識は、2年以上前から審議報告に記載されています。令和6年度改定では具体的な解決に至らず、令和9年度改定に持ち越された宿題です。

リハビリテーションマネジメント加算の建付けと現実

同資料P.41によれば、リハビリテーションマネジメント加算は「心身機能・活動・参加にバランスよく働きかけるリハビリテーションが提供できているかを継続的に管理することを評価する」加算です。制度の建付けとしては、活動・参加への働きかけを評価する加算のはずです。

しかし加算の算定要件として「計画書に活動・参加の目標を記載すること」は明示されておらず、目標の内容は事業所の裁量に委ねられています。結果として「リハマネ加算を算定しながら、計画書の目標は身体機能向上」という状態が広く存在します。制度の意図と実態のギャップは、加算の要件設計にも起因しています。

④ 通所介護との比較で見えるもの

同じ第258回分科会の資料1(通所介護)には、生活期サービス全体の構造を考えるうえで参考になるデータが含まれています。

通所介護・地域密着型通所介護の「利用の目的」(P.59・n=1,793・複数回答)
  • 生活機能を維持し、現在の生活を続けるため:1,515件(最多)
  • 他利用者や職員、地域とかかわる機会を持つため:1,144件
  • 入浴の機会を確保するため:1,078件
  • 生活機能を向上し、以前の状態に近づけるため:412件(下位)

出典:第258回介護給付費分科会資料1 P.59(R8.6.15)

利用者・家族が通所介護を利用する目的の1位は「生活機能の維持」であり、「向上」は大きく差をつけられた下位です。生活期サービスに対して利用者側が抱くニーズの重心は、現状維持にあります。

一方、同資料P.60の調査では、通所介護事業所が機能訓練の質向上にあたり「特に重要だと思うこと」の1位は「生活環境や日々の暮らし方を踏まえた総合的なアセスメント・目標設定」(76.4%)でした。事業所側は活動・参加視点の重要性を十分に認識しています。しかし「実際に実施していること」の1位は「意欲を維持・向上させるための声がけ」(71.5%)です。

認識と実践の間にギャップがある。この構造は通所リハでも通所介護でも共通しています。サービスの種別を問わず、生活期において「活動・参加」を実践の中心に据えることを妨げる何かが、制度の中に存在するということです。

補足:収支差率の違い
令和6年度の収支差率は通所リハが2.0%、通所介護が6.2%です(各資料より)。経営的な余裕の差が、活動・参加に踏み込んだ取り組みへの投資力に直結することも否定できません。通所リハの収支差率の低さは、それ自体が別の論点として審議されています。

⑤ 令和9年度改定の観察ポイント

令和9年度改定の方向性はまだ確定していませんが、今回の論点設定から読み取れることはあります。

論点 考えられる方向性
計画書の目標設定のあり方 活動・参加に関する目標設定の促進。要件化・評価への反映が検討される可能性があります
生活行為向上リハ加算(算定率1.6%) 廃止・統合・要件見直しのいずれか。算定しやすい形への改編も選択肢に入ります
アウトカム評価のあり方 「維持」「非悪化」を含む報酬上の評価方法の具体化。LIFEの活用が前提となる方向です
算定率の低い加算全般 簡素化・統合の方向性。令和6年度改定の審議報告でも引き続き課題と明記されています

ここで見失ってはならないのは、「目標に活動・参加を書くこと」が目的ではないという点です。同資料P.37が示す通り、生活期リハビリテーションにおける「活動・参加」の役割は「再建・維持・向上」です。身体機能へのアプローチを否定する方向ではなく、活動・参加という視点が計画に自然に組み込まれる報酬・評価の仕組みを整備することが、制度が目指すべき方向性です。

さらに大きな文脈として、「攻めの予防医療」(経済財政諮問会議・2026年5月)との接続があります。リハビリテーション専門職が地域ケア会議や通いの場に関与していく方向性が政策として示されており、機能維持という目的は変わらないまま、その実現の場が施設内の個別訓練から地域参加の場へと広がっていく流れが、すでに始まっています。

本質的な問いは何か

「身体機能の向上が約70%」というデータを前にして、「では計画書に参加の目標を書こう」と動いても、制度の構造は何も変わりません。報酬が変わらなければ行動は変わらない。生活期リハビリテーションが本来の役割を果たすためには、「活動・参加を目標に据えることが事業所にとっても合理的である」という報酬設計が不可欠です。令和9年度改定がその答えを出せるかどうか、審議の行方を注視する必要があります。

一次資料